第4回 あなたは何歳まで働きますか?

高齢者の雇用延長が進んでいますが、そのうちに「働かないシニア」問題が顕在化するのではないか、と前回書きました。もちろん確かな根拠があっての予測ではないのですが、どうも多くの会社ではシニア社員をうまく活用する人材マネジメントの「仕組み」がまだできていないのではないか、と感じるからです。

数年前に、誰もがその名を知っているような大手企業が相次いで社員をリストラする動きがあり注目されました。コロナ禍の前の話であり、いずれも業績は決して悪くはない会社ばかりです。リストラの内容は45歳以上を対象とした早期退職制度でした。対象となるのは「バブル世代」と呼ばれる、大手企業が大量に新卒一括採用をしたときに入社した人たちです。彼らは職能資格制度というわが国独自の人事管理方式に裏打ちされた年功制のもとで(決して職能資格制度=年功制ではないのですが)、ほぼ在職年数に比例するかたちで昇格や昇給が行われてきていて、「部下なし管理職」など仕事と報酬がアンバランスな人も多い層です。

近い将来に見込まれる定年延長も視野に入れると、この層を65歳、70歳まで雇い続けることは大きな負担になるので、業績のいいうちに若返りを図ろうとしてのリストラです。でも、リストラ以前に何か打つべき手はなかったのでしょうか。

シニア労働者は貴重な働き手としてこれからの社会に貢献することが期待されています。それを実現するために雇用延長など制度の改革が進んでいますし、働く人一人ひとりにも自分を高める努力が求められています。しかし、それだけでは決定的に足りない何かがあると、私は思います。それは人材マネジメントの「仕組み」です。言いかえれば、シニア社員にも活躍してもらえるような人事制度になっているかということです。いくら年齢にかかわらず働ける制度があって、本人も気力・体力がみなぎっているとしても、人事制度の内容とその運用がそれに応えられるようになっていなければ、シニア社員を活かしきることは絶対に無理、というのが私の見解です。

ここで人事部門の出番です。会社がシニア社員に期待する成果や役割をはっきりと示し、1年たったら実績はどうだったのかを振り返り、その結果を本人に明確に伝え、次の年の報酬に反映させる仕組みをつくること。そしてそれをルールどおりにしっかり運用していくこと。これがシニア社員の戦力化の第一歩だと考えます。働きの割には給料が高いからと切り捨てるのではなく、まず給料に見合った分だけ働いてもらうにはどうすればいいのかについて、徹底的に知恵を絞りましょう。

シニア層やその予備軍の多くは、これまでは会社から与えられた業務やポジションをひたすら受動的にこなし、年功制のレールに乗って昇格・昇給を重ねてきた人たちです。この人たちがシニアの仲間入りをしてから突然に仕事へのモチベーションがアップし、やりがいや自己の成長を求めて主体的に働き始めるということはあり得ません。彼らを戦力化する「仕組み」をつくりそれに乗せてしまうことが重要です。

ここでお気付きかと思いますが、実は何も目新しいことを始めようと言っているのではありません。シニア社員のみならず、社員全体に対する人事評価制度や報酬制度をしっかりと設計して、それをルール通りに運用しましょう、というだけの話です。シニア社員だけには必ず人事評価を実施すべきだとか、他の社員層とは違う特殊な人事評価を行うべきだとかいう話ではありません。一貫性のある人事制度の中にシニア社員も取り込みましょう、というご提案です。筋が通った人事制度は経営戦略を進めていくうえでの強力な武器になります。

業務に求められる経験やスキルが乏しく、やる気も失って存在感もなく、ただひたすらその日を待ち続ける「働かないシニア」の存在は、若年層の新規採用や処遇の向上を妨げる要因になるばかりか、職場全体の士気や規律にもいい影響を与えるはずがありません。

あなたの会社は、シニア社員がこれまで培ってきた能力や経験、そしてやる気に応えることができる人事制度になっていますか?

(第4回/全5回)2021年7月13日

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