人事評価制度にチャレンジ!(第1回)

人事コンサルタント・社会保険労務士の矢崎哲也による集中連載コラム

今月から6回にわたり、これから人事評価制度を導入しようと考えていたり、今の制度を見直す必要を感じている中小規模の会社を念頭に置いて、どうすれば人事評価制度をうまく運用して期待する効果を発揮させることができるのかを考えていきたいと思います。

人事評価の教科書に書かれているような内容よりも、私が20年以上のコンサルタントとしての経験の中で感じていること、わかったことを中心に書いていきます。「なるほど!」と思っていただけることもあると思いますので、ぜひ続けてお読みください。

この記事を読んでくださっている皆さんの会社の中には既に人事評価制度を導入しているところも多いと思いますが、うまく運用できているでしょうか?

人事評価制度に関するセミナーの冒頭で、私は受講者に「あなたの会社では人事評価はうまくいっていますか?」と聞きます。すると迷うことなく「うまくいっていると思う」で手を挙げる人は極めて少数派です。首をかしげながら「うまくいっていないと思う」に挙手する人はそれよりもちょっと多め。最後に「うまくいっているかいないかわからない人は?」と聞くと、どっと手が挙がります。要するに、人事評価がうまくいっているとはどういう状態をいうのかがよくわからない、という人が多いのですね。このことは「何のために人事評価制度を導入しているのか」「人事評価をする目的は何なのか」が明確になっていないことと大いに関係があります。

私はかつて17年間ほどサラリーマンをやっていました(人事部門ではありません)。そして最初のころは評価される側として、そのあとは評価する側として人事評価の渦中に身を置いていました。ではその頃の私は人事評価についてどう思っていたのかと言いますと、今だから告白しますが、「人事部や上司がやれというから仕方なくやるだけの大変面倒くさい年中行事。できればないほうがいい」と考えていました。おそらくこれは私だけでなく、周囲の人もみな同じだったように思います(違っていたら申し訳ありません)。

初めて評価者になったときに、合宿形式の管理職研修の一環として「評価者研修」を受けました。研修会社から来た講師が担当するのですが、その内容は人事評価の技術面の講義や、よくわかっていない参加者同士でのロールプレイが中心だったように思います。とてもつまらなくて現実感が持てない内容であり、何でこんなことをやる(やらされる)のだろうと思ったことをよく覚えています。

のちにまさか自分がお客さまの会社の人事評価制度の設計や運用のお手伝いをすることを生業とすることになろうとは思ってもいませんでしたが、今になってあの頃は人事評価に対してなぜ力が入らなかったのかを振り返ってみると、その答えは単純明快です。それは、人事評価を何のためにやるのかという目的や意義が社員に示されていなかったからです。もちろん、教科書的な人事評価の目的は勉強しました。しかし、うちの会社は人事評価を通じて社員をどうしたいのか、それによって会社がどういう状態になることを目指そうとしているのかというストーリーがまったく私たちには伝わってきませんでしたし、それについての経営者の思いや情熱というものが語られることもありませんでした。

人事評価の目的や意義がわからないので、私たち社員も当事者として主体的に取り組もうという気持ちにはなれませんでした。皆さんもそうだと思いますが、納得していないことに対しては真剣に取り組みませんよね?(でもサラリーマンは真剣に取り組んでいる「ふり」をするのが得意なので、これがまたややこしいところ)半端な気持ちで人事評価に漫然と関わっていた私が言えた義理ではないのですが、そんな状態でしたので人事評価によって社員が、そして会社がいい方向に変わっていくなどということは望むべくもありませんでした。

人事評価制度を成功させるための最初の一歩は、実施する目的や意義を明確にして制度にかかわる全員で共有することです。経営者が自らの言葉で語り、社員に「とにかくやってみよう」と思わせることです。私はこれが必須条件だと思うのですが、このプロセスがなくいきなりスタートさせる会社が多いのが実情のようです。

それでは人事評価の目的とは一体何なのでしょうか。次回はそのことを考えてみたいと思います。

(第1回/全6回)2022年5月23日
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