人事評価制度にチャレンジ!(第5回)

人事コンサルタント・社会保険労務士の矢崎哲也による集中連載コラム

人事評価制度は、査定よりも人材の育成に重きを置いて設計・運用すべきであること、そして評価される人の行動の変革を促すのが人事評価であり、その変革の方向性は経営理念の実現を目指すべきものであることを前回までに書いてきました。つまり経営理念の実現(もう少し手前の段階で言えば経営計画の達成であり業績の向上)に貢献する人材を育成するのが人事評価制度ということになります。
では、そう考えたときに人事評価制度を運用していくうえで留意すべきはどんなことでしょうか。

評価者の方たちを対象とした評価者研修の場で、「皆さんの会社では人事評価はいつですか?」という質問をします。すると、1年や半年といった評価期間が終わって人事評価シートに被評価者の評価を記入する、まさにそのときが「人事評価」だという認識の方が多いことに驚きます。正解はもちろん、「人事評価は評価期間全体を通して行う」です。シートに記入することが人事評価ならば、それまでの期間は一体何なのでしょうか。まさか何もしていない? そんなことはないにしても評価期間中であるという意識は希薄になっていると考えられます。
評価期間がそろそろ終わりに近づくころを見計らって人事評価シートを評価者に配る、という会社もあります。評価する側もされる側も、シートを見るまでは人事評価のことなどほとんど眼中にありません。それどころか、そのときに初めて評価項目を知る、という状態です。
被評価者が自分は何を評価されるのかを事前に分かっていなければ、人材の育成という機能は発揮されません。行動の変革を期待しようがないからです。人事評価シートに書かれている評価項目は査定のためのチェックポイントではありません。期待する仕事の成果や発揮してほしい能力、取ってほしい行動や姿勢を伝えるためのものです。ここをしっかり、人事評価に関わる全員で認識してください。

教科書的に言えば、人事評価とは「上司(評価者)が日常の職務遂行を通して部下(被評価者)を評価すること」となります。つまり部下の日頃の職務行動を見ることがベースとなります。だからこそ部下の職務行動を直接把握できる直属の上司が評価者となります。

上司は当然のことながら部下の育成責任も担っていますから、部下をしっかり評価して育成することは管理者である上司の本来業務中の本来業務です。よく「人事評価などのマネジメント業務よりも本来の業務に専念したい」という声が管理者から聞こえますが、認識を改めてもらわなければなりません。

ついでに言えば、評価者の立場にある人を評価するには部下の評価や育成に関する評価項目を必ず入れ、ウェイトも相当高くすべきだと思います。評価や育成ができない人は管理者としての適格性に欠けると会社は見ている、というメッセージが伝わるようにしてください。
初心の管理者の中には、人材を育成するなどという重たいことは自分にはできない、という方がかなりいらっしゃいます。しかしここでいう人材育成とは、何も人格的に優れた非の打ちどころのないハイパフォーマーを育てろ、ということではありません。人事評価項目で求められている期待像に被評価者が近づくように支援するということです。
だからこそ、人事評価では評価項目とその評価基準を的確に設定しておくことが決定的に重要であるということがご理解いただけると思います。期待する人材像がぼやけていたり、スペックが最初からずれていたりしたのでは、それを目指して進んでいく意味がありません。

目標をしっかりと定めて、それを合理的かつ効率的に達成する一連のプロセスをマネジメントと呼びますが、それを支援するためのツールとして身近に存在するのが人事評価です。その目指すところは人材の育成であり、その結果としての経営計画の達成、さらには経営理念の実現です。
ぜひ「ビジネスツールとして人事評価を活用する」という視点を失わないようにしていただきたいと思います。

人事コンサルタント・社労士 矢崎哲也

(第5回/全6回)2022年9月22日
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