人事評価制度にチャレンジ!(最終回)

人事コンサルタント・社会保険労務士の矢崎哲也による集中連載コラム

この連載ブログも最終回となりました。これまでに、人事評価制度は「査定」のツールとしては少し頼り甲斐がないことや、もう一つの機能である「人材育成」のためのツールだと考えて設計・運用すべきであることを書いてきました。平たく言えば、社員個人の昇給やボーナスをいくらにするかということのためだけにではなく、もう少し視点を広げてこれから会社の業績をさらに向上させていくためにも人事評価をうまく活用したらいかがですか、やりようによっては可能ですよ、というご提案をしてきたつもりです。

今回は締めくくりとして、人事評価制度が根付くために必要不可欠なこと、これがなければせっかくつくった人事評価制度が乗っからないという「土台」のようなものがあることを私はこれまでの経験から感じていますので、そのことを書いてみたいと思います。しっかりとした人事評価制度をつくりさえすれば、どんな職場にもそれが定着して人材が育ち会社の業績も上がっていく、などということはあり得ないという現実も直視しなければならないからです。

ではその「土台」のようなものとは一体何でしょうか。それはズバリ「信頼関係」です。経営者と社員、そして社員同士の信頼関係です。人事評価などの人材マネジメントがしっかり行われ、その結果として経営全体がうまく回っていくためには、そこに集まる人たちの間に信頼関係があることが絶対条件だと思います。

経営者と社員の間にまったく信頼関係がない職場と実際に関わったことがあります。社長はいつも不機嫌な顔をしていて、社員が「おはようございます」と挨拶をしても無反応です。社員をバカにするような言動も目立ちます。社員が何か失敗すると、「俺の金儲けの邪魔をするな!」とでも言いたげな表情で怒鳴りつけます。
そういった社長の態度は、上司が部下と接するときの態度にも伝染します。ですから社員同士にも対話がなく、お互いに非協力的で、陰口の応酬です。職場にいること自体が不愉快なので新人もどんどん辞めていきます。何となく経営者とうまく合わせていける古株だけが残る、何とも淀んだ職場でした。

どう考えてみてもこんな職場で人事評価制度なんて絶対に定着するわけがないことを、皆さんも容易にお分かりいただけると思います。

それではこういう職場でも人事評価が運用できるように変えていくためにはどうすればいいのでしょうか。信頼関係を築き上げていくためにはまず何が必要なのでしょうか。
その答えは、私は「コミュニケーション」に尽きると思います。活発で良好なコミュニケーションこそが、信頼関係の基盤になることは間違いないのではないでしょうか。
人事評価制度の運用を始めると、上司と部下の定期的な面接も組み込まれますからコミュニケーションの機会は確かに増えます。しかしその場だけでは信頼関係の醸成のためには不十分で、常日頃からのコミュニケーションこそが大切なのです。普段はギスギスした人間関係なのに人事評価の面接だけはうまくいく、なんていうことはあり得ません。
そして決定的に重要なことは、まず上の立場にある人からコミュニケーションを活発にする努力をすべきだと思います。良好なコミュニケーションは必ずしも自然発生するものではないので、コミュニケーションを通じてマネジメントしようとする側から意図的・積極的に仕掛けることが必要ではないでしょうか。このことは、会社の規模や業種に関係のない、普遍的な原理原則だと思います。

あなたが経営する会社には、あなたが働く職場には信頼関係がありますか?
コミュニケーションは十分にとれていますか?
そして経営者は、管理者はそういう職場をつくろうと努力していますか?

「人事評価にチャレンジ!」と思ったら、まずそこから振り返ってください。

人事コンサルタント・社労士 矢崎哲也

(最終回/全6回)2022年10月19日
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