人事評価制度にチャレンジ!(第3回)
人事コンサルタント・社会保険労務士の矢崎哲也による集中連載コラム
前回は「査定機能」と並んで人事評価が持っている「人材育成機能」をもっと活用すべきであると書きました。
人事評価の目的は査定である、という認識が一般的です。しかし評価の結果を機械的に処遇に反映させられるほど、全員を公正・公平に評価することができる評価項目や精緻な評価基準をつくることは困難ですし、そもそも評価するのは人間なので必ず主観が入るという事実にも目を向けなくてはなりません。そう考えてみると、査定を目的とした人事評価の「限界」は意外と近くにあることに気づきます。
人事評価には、会社が社員に期待する人材像を評価項目として具体的に明示することによって社員がとるべき行動の方向性を示し、社員の行動を変えていくという機能があります。これを活用することによって、会社が求める人材を育成していくことが可能になります。
企業活動を維持し更に発展させていくためには、実際に活動の担い手となる人材を育成していくことが不可欠なのは言うまでもありません。社員一人ひとりが成長すれば組織も必ず成長します。しかしながら、そのことを十分に認識し人材育成を重要な経営課題と捉えて積極的に取り組んでいらっしゃるという社長さんに、「では具体的にどういう人材に育成していこうと思いますか?」とお尋ねしてみると明快な答えが返ってこないことがあります。
人材育成の第一歩は、「どんな人材を育成したいのか」を具体化することだと思います。育成したい人材の具体的なスペック(仕様)を決めないと、育成する側もそうですが、育成される側も何を目指したらいいのかわかりません。これが明確になっていないと人材育成は成立しないのです。
社員に期待する人材像を示すとは、
「こういう仕事上の成果を上げて欲しい」
「こういう行動をとってほしい」
「こういう能力を身に着けて欲しい」
ということを社員に具体的に伝える、ということです。
では、「社員に期待する人材像」を考えるときには何を拠り所にすべきでしょうか。
それは企業の究極の目的、言い換えれば最大かつ最終の目的である「経営理念」です。えっ?人事評価の話だと思って読んでいたのになぜ経営理念が?と怪訝に思われる方もいらっしゃると思いますが、実は人事評価は経営理念と不可分の関係にあるのです。
企業は経営理念を実現するために中・長期にわたる経営計画を立てて、戦略・戦術を考えながら単年度の事業計画に落とし込み、それを着実にクリアしていくために日々の活動をしています。その活動の担い手である社員は、抽象的に言えば「経営理念を理解し実践できる人材」でなくてはなりません。人事評価とは、まさにそういう人材を育成するためのツールである、と考えることができます。
ですから、人事評価制度づくりのお手伝いをする私たちの立場から言わせていただくと、経営理念そのものが存在しなかったり(ときどきあります)、あるいはあっても形骸化していたり(よくあります)するお客様企業の人事評価制度づくりは大変です。まず会社が目指すものは何なのか、大切にしたい価値観は何なのかから一緒に考えることになりますから時間もかかります。もちろん、いい機会だと経営理念を見つめ直した会社もありますが、残念ながら「業界の標準的な人事評価制度でいいです」「世間一般と同じようなものにしてください」というところに落ち着いてしまう場合もあります。
また、経営理念を実現することを念頭に置いた人事評価制度をつくってそれをしっかり運用していけば、社員の間に経営理念が浸透するという大きな効果があることも見逃せません。
人事評価の主な目的を「査定」に置くか「人材育成」に置くかによって、人事評価に対する社員の考え方にも違いが出てきます。たとえば賞与に関して言えば、査定を目的とする人事評価では、賞与の原資を各社員に合理的に配分するためにはどうすべきかがテーマになりますが、人材育成のための人事評価ではそれに加えて、みんなで頑張って業績を上げて賞与原資を増やしていこうということもテーマになってきます。
皆さんもぜひ、人材育成を目的とした人事評価制度を目指していただきたいと思います。