人事評価制度にチャレンジ!(第4回)
人事コンサルタント・社会保険労務士の矢崎哲也による集中連載コラム
前回までは、査定だけを目的として人事評価制度を導入しようとするといろいろな不都合に直面して結局は運用が難しくなるので、人事評価の主な目的は人材の育成に置くべきであることを書きました。
今回は、人事評価では評価される人のどこを評価するのか、つまり何を評価の対象とするのか、そして評価項目の持つ意味を考えてみます。
人事評価では一般的に、評価の対象とする要素として次の3つが挙げられます。
●仕事の成果 (成し遂げた仕事の量や質の評価)
●能力 (仕事を進めていく上で必要な能力や知識の評価)
●行動・態度 (仕事に取り組む姿勢や行動の評価)
これらの要素を、社員に求めるレベル(等級)に応じて選択したり、ウエイトを変えたりしながら、具体的な評価項目をつくって人事評価シートにまとめ上げていくことになります。
この中の「仕事の成果」の評価では、仕事の量や質を直接評価する場合もありますが、期の初めに目標を設定してその達成度を期の終わりに評価する方法(「目標管理制度」)が広く普及しています。本来は上級者向けであり、きちんとした運用はなかなか難しい方法なのですがとても人気があり、一般企業のみならず公的機関や医療・福祉関連事業などでも広く使われています。
上記の3つの要素については、次の等式が成り立つと言われています。
「仕事の成果」=「能力」×「行動・態度」
かつて成果主義という名の猛烈なブームが巻き起こったことがありますが、それはこの等式の左辺、つまり「仕事の成果」の評価だけに注目した考え方です。
仕事は結果が大事ですから、どれだけ成果を残したかを評価することは正しいと思います。でもよく考えてみると、「仕事の成果」というのは過去における事実です。終了した事業年度でその人が上げた実績はどうであったか、という話です。ジャスト・タイムで成果を評価する仕組みになっていたとしても、タイムラグがありますから過去の事実であることには間違いありません。もちろん過去の実績を評価することも大事ですが、将来にわたって成果を上げ続けることができる人材であってもらうこともとても大切だと思いませんか?
そうすると、等式の右辺の「能力」を高めたり、望ましい「行動・態度」を取ってもらったりすることにも着目し、きちんと評価しなければなりません。ここにも「査定のための人事評価なのか、人材の育成のための人事評価なのか」というポリシーの違いが出てきます。
特にこれから人事評価を始めようという会社にあっては、「仕事の成果」「能力」「行動・態度」をバランスよく評価していくことをお勧めしています。
人事評価シートには、評価の要素を具体化した評価項目が書かれますが、これは会社が社員に期待する人材のスペック(仕様)を表したものです。会社側としては、社員に明確かつ具体的なメッセージを送るつもりでつくらなくてはいけません。社員がその期待像を目指して行動し、期待に応えることによって会社の業績は向上し、人材の育成にもつながるのだ、という思いを込めてください。
例えば「行動・態度」の評価の中に
「自ら率先して対話を心がけ、職場の良好な雰囲気づくりをはかっていた」
という評価項目があったとします。この項目について実際の職務行動に基づいてどうであったかを評価するわけですが、重要なことは「自ら率先して対話を心がけ、職場の良好な雰囲気づくりをするような行動をとってくださいね」というメッセージが社員に伝わっているかどうかです。
人は評価される方向に動きます。メッセージが伝われば行動が変わり、社員の行動が変われば会社も変わります。
当然のことながら、評価項目が記載された人事評価シートは、その評価期間の始まるときに社員に開示されていなくてはなりません。なぜなら、その期待像に向けて社員は頑張るからです。社員の行動を変える機能があるのに、それが伝わっていなくては意味がありません。
人事評価は導入しているものの「評価項目は社員には開示していません」という会社に出会ったことがあります。あくまでも「秘密主義」「閻魔帳方式」の査定の文化が染みついていました。自分の何が評価されているのかわからない状態の下で働く社員は、いったいどういう気持ちなのだろうと思いました。
人事コンサルタント・社労士 矢崎哲也