転勤拒否で解雇の元社員と和解
会社側が解決金を支払う。
小学生だった長男の病気や母親の介護を理由に転勤に応じなかったことで平成31年4月に懲戒解雇とされたのは不当だとして、NECソリューションイノベータ(東京)元社員の男性(56)が同社に慰謝料100万円や賃金の支払い、解雇の無効確認を求めた訴訟は、大阪高裁で和解が成立した。8月29日付。
第1審の大阪地裁は、長男の持病を考慮しても通常甘受すべき程度を著しく超える不利益があるとは言えないとし、社会通念上も相当なものとして、解雇権濫用には当たらないと原告側の主張を退けていました。
さて、転勤命令に関する有名な判例に「東亜ペイント事件」(最判昭和61年7月14日)がありますので、厚生労働省「労働条件に関する重要な裁判例」より引用させていただき、ご紹介します。
【事案の概要】
(1)頻繁に転勤を伴うY社の営業担当者に新規大卒で採用され、約8年間、大阪近辺で勤務していたXが、神戸営業所から広島営業所への転勤の内示を家庭の事情を理由に拒否し、続いて名古屋営業所への転勤の内示にも応じなかったことから、Y社は就業規則所定の懲戒事由に該当するとしてXを懲戒解雇したところ、Xは転勤命令と懲戒解雇の無効を主張して提訴したもの。
(2)最高裁は、転勤命令は権利の濫用であり、Y社が行った転勤命令と、それに従わなかったことによる懲戒解雇は無効であるとした大阪地裁・高裁の判決を破棄し、差し戻した。
【判示の骨子】
(1)入社時に勤務地を限定する旨の合意もなく、労働協約と就業規則に転勤を命じることができる旨の定めがあり、転勤が実際に頻繁に行われていたという事情の下では、会社は、労働者の個別的な同意を得ることなくその勤務場所を決定できる。
(2)しかし、特に転居を伴う転勤は、労働者の生活に影響を与えることから無制約に命じることができるものではなく、これを濫用することは許されない。
(3)そして、転勤命令について、業務上の必要性がない場合、その必要性があっても他の不当な動機・目的をもってなされた場合、労働者に通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせる場合等、特段の事情がない場合には、当該転勤命令は権利の濫用に当たらない。
(4)なお、業務上の必要性とは、その異動が余人をもっては容易に替え難いといった高度の必要性に限定することなく、企業の合理的運営に寄与する点が認められる場合を含む。
(5)本件転勤命令には業務上の必要性が優に存在し、Xに与える不利益も通常甘受すべき程度であり、権利を濫用したとはいえない。
ここで、本事件をご担当された西本弁護士の回顧録にもとづき、最高裁判決後について触れておきたいと思います。
・平成4年2月17日、差し戻しされた大阪高裁で和解
・和解内容は、会社が職場復帰させ、相応の地位と給与を支払うことなど
・解雇がなければ得ていたであろう労働条件を補償し、解決金の支払いをするという「Xの全面勝利の内容」
・Xは職場復帰後、実力を発揮し、平成14年12月に定年を迎えた(最終の地位は部長職)