“パワハラで税務署職員がうつ病” 国に賠償命じる判決
継続的に行われることで感じる精神的な負荷は大きい
神奈川税務署で上司が職員に繰り返し「バカヤロー」などと叱ったことはパワハラにあたり、職員がうつ病になる原因になったとして、東京地方裁判所は国に80万円あまりの賠償を命じる判決を言い渡しました。
ハラスメントに関する損害賠償責任には、①加害者本人の賠償責任と②使用者の賠償責任があります。
①加害者本人の賠償責任
ハラスメントによって被害者の権利を侵害し、損害を与えた場合には「不法行為」に該当しますので、慰謝料など被害者への損害賠償責任を負うことになります。
②使用者の賠償責任
(1)安全配慮義務違反
企業などの使用者は労働者に対して、安全や職場の環境に配慮する義務を負っていますので、社内でハラスメントが発生して加害者に不法行為責任が生じるような場合には、「安全配慮義務」に違反したとして使用者に損害賠償責任が生じる可能性が高いとされています。
(2)使用者責任
加害者の雇い主としての「使用者責任」が生じる可能性ももあります。
【民法715条1項】
ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
このように、ハラスメントの被害者は、通常、会社とともにパワハラやセクハラをした加害者も相手方に加えることが多いと思います。
しかし、公務員の場合は、パワハラやセクハラを行っても加害者自身は損害賠償責任を負担しないとされています。これは、ハラスメントが公務員(加害者)の不法行為責任とすれば、公権力の行使と考えられるため国家賠償法が適用され、最高裁が、国家賠償法上の責任が認められる以上、公務員個人は被害者に損害賠償責任を負わないと判示しているからです。
【国家賠償法1条1項】
国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によって違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。
そのため、判例に従うと、ハラスメント被害者(公務員)は、国や地方公共団体等だけを国家賠償責任というかたちで訴えることにならざるを得ないといえます。